温度試験槽などの温度分布 お客様のバリデーションに現場作業で関わる当社ならではの情報を交えてお届けします。
このページでは、一般細胞の培養、薬剤の保管など、試験・検査や製造現場で様々な用途に利用されている温度試験槽について、温度試験槽の温度分布に関する設備の稼動原理から、適格性評価の実態・実験データ、関連規格など、適格性評価業務としてお客様のバリデーションに現場作業で関わる当社ならではの情報を交えてお届けします。
- 温度試験槽などの温度分布を実現している機器の構成(仕組み)
- 温度試験槽などの温度分布の実態(適格性評価・測定の必要性)
- 温度試験槽などの温度分布(適格性評価・測定)の項目例
- 温度試験槽などの温度分布に関連する規格の情報
※ここでの“温度試験槽など”は、一般的に広範囲な温度域を高精度に制御できる恒温槽や、比較的狭い温度域で、恒温槽ほど温度精度が要求されないインキュベータを指します。
1.温度試験槽などの温度分布を実現している機器の構成(仕組み)
温度試験槽などの温度分布は「空気を加温する加熱器(ヒータ)や冷却する冷却器」だけでは実現出来ません。
温度試験槽などの温度分布を実現するための設備は用途により様々ですが、一例を以下に示します。
各要素の働きと機能
機器名 | 働き・機能 |
---|---|
①温度計(制御用) | 設定値に制御するため、槽内温度を測定する |
②冷却器 | 空気を冷却する |
③加熱器 | 空気を加熱する |
④ファン | 空気を循環させる |
⑤温度槽 | 温度を一定に保つ空間(容器) |
⑥空調室 | 空気の温度を調整する空間 |
⑦温度計(過昇温防止) | 加熱器の異常過熱時に電源を切る(安全装置) |
※加熱器、冷却器がない設備もあります。(室温からの昇温のみ、冷却のみで使用する)
2.温度試験槽などの温度分布の実態(適格性評価・測定の必要性)
温度試験槽は、医薬品製造・食品製造等の様々な検査・試験工程などで用いられています。
槽内に入れる製品や試料などは、入れた(置いた)場所の温度の影響を受けるため、用途によりその温度分布が問題になります。
そこで、温度試験槽を選ぶ場面では、用途に適した温度分布の性能を設備が有するかが考慮されますが、製品や試料などを実際に入れて使う設定温度や、入れた(置いた)場所でどの程度の温度分布になっているかは分かりません。
⇒こんな時には、温度試験槽で実際に使う設定値や、製品や試料などを置く場所が、必要な温度分布になっているかの確認が有効です。
同じ型式でも設定値により温度の変動・分布の状態は色々
設定値により、温度が大きく変動するケース、場所ごとに大きい温度差(温度分布)が出るケース
設定値との温度差が大きいケース、など。
⇒実際に測定して比較してみると、、、
設定値 | 庫内温度の状態 |
---|---|
23℃ | 設定値を中心に大きく変動(±1.3℃) |
32℃ | 設定値から一定の温度差で安定(最大-0.6℃) |
43℃ | 温度変動も大きく、設定値との差も大きい(最大-1.2℃) |
対象設備:恒温槽(同型式 3台)
負荷物:無し
測定点数:9点
→上記に関連する実験データはコチラ(No.5 温度試験槽の温度変動の実際(設定温度による温度のバラつき))
→上記に関連するメルマガはコチラ(16号 温度試験槽の温度変動の実際)
同じメーカでも機種により温湿度の変動・分布の状態は色々
湿度の変動が大きくても位置ごとの湿度差(分布)が小さいもの、
逆に湿度変動は小さいものの分布が比較的大きいもの、など。
⇒実際に測定して比較してみると、、、
温度 | 湿度 | 分布精度(機器仕様) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
変動幅 | 分布 | 変動幅 | 分布 | 温度 | 湿度 | |
恒温恒湿槽A | 0.2-0.3℃ | 0.3℃ | 7%rh | 1%rh | ±0.5℃ | ±3%rh |
恒温恒湿槽B | 0.4-0.6℃ | 0.5℃ | 0.7%rh | 4%rh | ±0.5℃ | ±5%rh |
対象設備:恒温恒湿槽2台(同メーカ(型式は異なる))
負荷物:無し
→上記に関連する実験データはコチラ(No.70 恒温恒湿槽の温湿度の偏りと変動)
→上記に関連するメルマガはコチラ(93号 恒温恒湿槽の機種による温湿度の特徴)
同じ測定データでも評価規格によって全然違う値になる
評価項目を算出する規格で計算式が異なる場合があるため、同じような項目名でも異なる値となってしまいます。
⇒実際に「温度の変動」を同じデータで計算してみると、、、
規格名 | 呼び名 | 算出値 |
---|---|---|
JTM K01(旧規格) | 温度変動 | ±0.73℃ |
JTM K07(現行規格) | 温度変動幅 | ±0.14℃ |
対象設備:恒温槽
負荷物:無し
設定温度:25℃
→上記に関連するメルマガはコチラ(330号 温度槽性能試験における新旧準拠規格混在の問題点とその対応について)
上記のような温度試験槽、温度分布に関連する実験データ以外にも、バリデーション・適格性評価に関する様々な情報をメールマガジンで毎週木曜日に発信しています!
3.温度試験槽などの温度分布(適格性評価・測定)の項目例
温度試験槽などの温度分布に関係する評価項目としては、JIS規格 ※1 に温度変動、空間温度偏差、温度勾配などが示されています。また日本試験機工業会規格(JTM規格)※2 に、同様の項目のほか、温度分布などが示されています。
ただ、上記項目では、ある設定値の時の各場所の温度(平均値)や、温度変化のピーク(瞬時値)が分かりません。
実際の使用用途に適しているか判断していただくため、当社では使用者のニーズに合わせてこれらの項目も測定・算出しています。
※1 JIS C60068-3-5、※2 JTM K07,JTM K01等
評価項目 | 目的・使用時の規格・基準(例) | 当社での測定方法 |
---|---|---|
温度変動 温度変動幅 |
目的 時間的な温度変化(変動)の状態を確認 期待される結果: 機器の仕様を満たすこと |
温度記録計を使用して測定 |
温度勾配 空間温度偏差 温度分布 |
目的 空間的な温度分布(ばらつき)の状態を確認 期待される結果: 機器の仕様を満たすこと |
|
温度平均値 (最大・最小) |
目的 空間的な温度分布(ばらつき)の大きさを確認 所定の温度範囲内にあるかを確認 期待される結果: 適用規格の規格要求値を満たすこと 使用上の上下限値を満たすこと |
|
温度瞬時値 (最大・最小) |
目的 時間的な温度の変動(ふらつき)の状態を確認 所定の温度範囲内にあるかを確認 期待される結果: 適用規格の規格要求値を満たすこと 使用上の上下限値を満たすこと |
「温度試験槽などの温度分布測定」についての当社の対応範囲(測定能力)は以下をご覧ください。
4.温度試験槽などの温度分布に関連する規格の情報
温度試験槽などの温度分布(評価項目の定義や測定の基準)に関連して、以下の規格があります。
JIS C60068-3-5
環境試験方法-電気・電子-第3-5部:支援文書及び指針-温度試験槽の性能確認の指針
JIS C60068-3-6
環境試験方法-電気・電子-第3-6部:支援文書及び指針-温湿度試験槽の性能確認の指針
JTM K01
恒温恒湿槽-性能試験方法及び性能表示方法(1998)
JTM K03
恒温恒湿室-性能試験方法及び性能表示方法(2001)
JTM K05
高温恒温槽-性能試験方法及び性能表示方法(2000)
JTM K07
温度試験槽-性能試験方法及び性能表示方法(2007)
JTM K09
温湿度試験槽-性能試験方法及び性能表示方法(2009)
- JIS規格は国際規格であるIEC規格を元に作成されています
- JTM規格は日本試験機工業会の規格です。現行のJTM K07/K09はJISと整合性をはかり、実際の運用面を重視して、記載されていない内容を補足したものです。
- JTM K01/K03/K05規格は現在廃止となっていますが、使用してはならないものではなく、今までの装置管理の状況を考慮して、使用者の判断で運用してもよいとされています
上記のJTM規格の対象や範囲を表にすると以下のようになります
■JTM規格
上記の各規格の制定・移り変わりを年表にすると以下のようになります