滅菌器の評価 お客様のバリデーションに現場作業で関わる当社ならではの情報を交えてお届けします。
このページでは、試験・検査で使われる器具や培地の滅菌、無菌エリアへの持込品の滅菌など、試験・検査や製造現場で利用されている滅菌器について、滅菌器に関する設備の稼動原理から、適格性評価の実態・実験データ、関連規格など、適格性評価業務としてお客様のバリデーションに現場作業で関わる当社ならではの情報を交えてお届けします。
1.加熱による滅菌を実現している機器の構成(仕組み)
“滅菌”は、あらゆる微生物を完全に殺滅・除去することです。
その方法として、加熱、電磁波、化学作用、分離などの方法があり、ここでは加熱による滅菌法の高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)について記載します。
加熱による滅菌は「滅菌温度まで加温する加熱器(ヒータ)」だけでは実現出来ません。
加熱による滅菌を実現するための要素は設備規模や用途により様々ですが、一例を以下に示します。
高圧蒸気滅菌器(湿熱滅菌法:飽和蒸気滅菌:重力置換式)
各要素の働きと機能
機器名 | 働き・機能 |
---|---|
①温度計(制御用) | 設定値に制御するため、槽内温度を測定する |
②温度計(品温用) | 負荷物の温度(品温)を測定する |
③温度計(過昇温防止) | ヒーターの異常過熱時に電源を切る(安全装置) |
④圧力計 | 缶内の圧力を指示する |
⑤時間計 | 設定温度以上の経過時間を設定する(設定温度到達後~滅菌終了までの時間) |
⑥ヒータ | 水を加熱して蒸気を発生させる |
⑦缶体(耐圧容器) | 負荷物を収納する容器。滅菌温度の飽和蒸気圧に耐える耐圧性を持つ。(ex.121℃/0.1MPa) |
⑧空水検知 | 水の無い状態で昇温させない(安全装置) |
⑨蒸気排出弁 | 蒸気発生に伴い、空気を逃がし空気と蒸気を置換する |
⑩安全弁 | 異常に高圧になった場合に内部の圧力を逃がす(安全装置) |
⑪ドレンバルブ | 缶内の水を排出する |
⑫負荷物 | 滅菌する対象のこと。培地や試験器具類を指す |
※真空ポンプが付属する設備もあります。(空気を除去してから蒸気を供給することで、空気と蒸気を完全に置換する)
※飽和水蒸気の発生方法として、図のようにチャンバの水を加熱する方法のほか、蒸気発生器から発生させる方法、外部から蒸気を供給する方法の設備もあります。(比較的大きな設備に多い)
2.滅菌器の評価の実態(適格性評価・測定の必要性)
滅菌器は、医薬品製造・食品製造等の様々な検査・試験工程などで用いられています。
槽内に入れる製品や器具の滅菌状態は、そのものが持つ熱容量(昇温に必要な熱量)や、入れた(置いた)場所の温度、装置の昇温速度などの影響を受けるため、その温度推移や温度分布が問題になります。
そこで、滅菌器を選ぶ場面では、用途に適した容量や温度分布の性能を設備が有するかが考慮されますが、製品や器具などを実際に入れて使う設定温度や設定時間での温度推移や、入れた(置いた)場所でどの程度の温度分布になっているかは分かりません。
⇒こんな時には、滅菌器で実際に使う設定値での温度推移や、製品や器具などを置く場所が必要な温度分布になっているかの確認が有効です。
同じ運転条件でも負荷物の容量により温度の推移は色々
同じ運転条件(温度・時間)でも、滅菌温度の到達時間に大きな違いが見られます。
⇒違いが出ること自体は感覚的にも分かりますが、実際に測定して比較してみると、、、
測定位置 | 常温→滅菌温度 | 制御センサ部と較べた遅れ |
---|---|---|
到達時間 | 遅れ時間 | |
制御センサ | 50分 | - |
20ml | 50分 | 0分 |
100ml | 57.5分 | 7.5分 |
1000ml | 64.5分 | 14.5分 |
対象設備:オートクレーブ(小型)
設定値:122℃/30分
負荷物:20/100/1000ml(水)
測定点数:各負荷物1点
→上記に関連する実験データはコチラ(No.32 オートクレーブでの熱浸透測定(実測結果))
→上記に関連するメルマガはコチラ(51号 オートクレーブでの滅菌不足?)
上記のような滅菌器、温度分布に関連する実験データ以外にも、バリデーション・適格性評価に関する様々な情報をメールマガジンで毎週木曜日に発信しています!
3.滅菌器の評価(適格性評価・測定)の項目例
滅菌器の評価に関係する評価項目としては、JIS規格※1 にチャンバの温度、滅菌タイマ、などが示されています。
ただ、上記項目では、実際の設定値(温度・時間)での、各場所の温度推移や負荷物ごとの温度上昇の遅れ具合、滅菌中の平均値・ピーク(瞬時値)などが分かりません。
実際の使用用途に適しているか判断していただくため、当社では使用者のニーズに合わせてこれらの項目も測定・算出しています。
※1 JIS T7322
評価項目 | 目的・使用時の規格・基準(例) | 当社での測定方法 |
---|---|---|
保持時間 | 目的 所定の温度を保持した時間の管理 期待される結果: 適用規格の規格要求値を満たすこと 121℃/15分以上 など |
温度記録計/ロガーを使用して測定 温度センサは防水・耐圧性を持つ専用のものを用います。 ![]() ![]() |
F値 (熱履歴) |
目的 滅菌プロセスの微生物不活化能力の程度の管理 期待される結果: F0値12以上(オーバーキル法) など |
|
温度平均値 (最大・最小) |
目的 滅菌時間中の空間的な温度分布 (ばらつき)の状態の確認 期待される結果: 適用規格の規格要求値を満たすこと 使用上の上下限値を満たすこと など |
|
温度瞬時値 (最大・最小) |
目的 時間的な温度の推移(ふらつき)の状態の確認 期待される結果: 適用規格の規格要求値を満たすこと 使用上の上下限値を満たすこと など |
「滅菌器の評価測定」についての当社の対応範囲(測定能力)は以下をご覧ください。
4.滅菌器の評価に関連する規格の情報
滅菌器の評価(評価項目の定義や測定の基準)に関連して、以下の規格があります。
JIS T7322
医療用高圧蒸気滅菌器
JIS T7324
医療用小型高圧蒸気滅菌器
JIS T0816-1
ヘルスケア製品の滅菌-湿熱-
JIS K3600
バイオテクノロジー用語
ISO17665-1
Sterilization of health care products - Moist heat -
日本薬局方(JP)
第十七改正日本薬局方(JP17)
滅菌バリデーション基準(薬食監麻発1218第4号 平成26年12月18日)
医療現場における滅菌保証のガイドライン
・JIS T0816-1は国際規格であるISO17665-1を元に作成されています
規格での“滅菌(sterilization)”の定義
規格によりそれぞれ定義されているため、該当箇所を纏めてみました。
JIS T7322
物品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いる,バリデーションを受けた運転サイクル。
JIS T7324
物品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いる,バリデーションを受けた運転サイクル。
JIS T0816-1
製品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いる,バリデートされたプロセス
JIS K3600
微生物の生活力を奪い,生存しているものを完全になくし,無菌状態を作り出すこと。
滅菌バリデーション基準
製品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いる、バリデートされたプロセスのことをいう。
→湿熱滅菌の参照する規格として、 JIS T0816-1が挙げられている。
医療現場における滅菌保証のガイドライン
物質からすべての微生物を殺滅または除去すること.
上記の規格/基準の対象や範囲を表にすると以下のようになります
■JTM規格
※2017.04確認時点での内容
JIS/ISO規格の制定・移り変わりを年表にすると以下のようになります